ポタリと、汗が滴る。
額から流れ、頬を伝い、顎から落ちた。
片手で拭う。
日蔭でも暑い。
半分ほどに減ったペットボトルに口をつけた。喉に流れてきたモノは、もうかなり温くなっている。
「美鶴はさぁ、いっつも何やってんの?」
「え?」
まだ半分呆けたような表情に、だがツバサは気付かない。
暑さでボーっとしているとでも思ったのだろう。
「日がな一日、お勉強?」
「まぁ ね」
「あの駅舎で? っと、夏休みの間は行かないんだっけ」
「あぁ」
「ふーん」
そう言って、ゴクリと飲み込んだ。ツバサのは、もうほとんど残ってない。
「でもさぁ せっかくの休みなんだし、もっと何か楽しんだら?」
「そう言うアンタは、何してるのさ?」
質問されるばかりでは癪だ。
憮然とした切替しに、ツバサは声をあげて笑う。
「アタシはこの通り、子供の世話で手一杯よっ」
【唐草ハウス】
いろいろな事情で親と暮らせない、もしくは親を失った子供達が一緒に暮らしている。ようは孤児院のような施設だが、それほど規模は大きくない。
年老いた女性が、個人的に子供を引き取っては育てているようだ。
ツバサは、その施設を手伝っている。
「ボランティアってモンでもないよ。時間がある時にだけ顔出して、子供と遊んでるだけ」
自尊するでもなく、卑下するでもない。
ツバサの言葉は、美鶴には不可解だ。言葉の裏を読もうにも読めない。まるで、裏などないかのようだ。
表裏のない人間など、いるはずもないのに――――
「本当はね、今も買い物頼まれて出てきたんだよね。もう帰んないとシロちゃんに怒られちゃうかも。あっ シロちゃんてね、一見大人しいけど、意外と口うるさかったりする子なんだよねぇ〜」
「じゃあ、帰ればいいじゃん」
わざわざシャンプーを持ってきてくれた相手に対して、あまりに無礼極まりない。
本当はシャンプーを受け取ったら、サッサとお別れしたいくらいだ。
だが、ひょっとしたらこれからもお世話になるかもしれないと思うと、そう邪険にもできない。
これが美鶴の本音。美鶴の裏。
そんな美鶴に、それはないよと言い返すが、当の美鶴は半分も聞いていない。油断すると、再び過去の世界へと舞い戻ってしまう。
黙りこくってしまった相手に、ツバサは露骨に眉を潜めた。
「美鶴?」
だが返事がない。
「美鶴っ!」
「えっ?」
肩を揺さぶられて、目を見開き驚く。
「さっきからさぁ 何考えてんの?」
「あっ いや」
適当な言い訳も思いつかず、言葉を濁らせる。
「マジ、何かあった?」
いつもケラケラと明るいツバサには珍しい。笑みを隠し、探るような視線が居心地悪い。
あの状況を、この相手にどう話せと言うのだ。
そもそも、あれは現実だったのか?
なぜあんなコトに…… あんなコトになってしまったのか?
半分ツバサへ顔を向けたまま、意識はまたしても深い思い出へと、堕ちていった。
「しっ……」
そのまま女性は固まった。
危うく落しそうになったグラスに手を添える横の女性も、目を点にしたままこちらを凝視している。
「…… 慎二
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